
象嵌陶芸作家 手塚 美弥さん
繊細な技術と型破りな行動力から創り出される
アートな作品たち
象嵌で施された文様が、でしゃばりすぎず、それでいて、しっかり土に馴染みながらも自らを主張し、表現されているところが何ともいえない。この文様が、絵付けでいう上絵だとでっぱりができ、下絵だと土に馴染む表現はできない。
象嵌という技法を長年修練し、独特の文様を彩り作品に活かしているのが、都内に拠点をおき、陶芸作家の道を歩む手塚美弥さんだ。

象嵌という技法
そもそも象嵌とはどういう技法なのか?
象嵌は工芸装飾の技法のひとつで、陶器の場合、土の素地に文様を削り、その削った部分に異なった色の土を嵌入して釉薬をかけて仕上げる技法だ。焼成するとき、素地になる土と異なった色の土の硬さが、水分量によって差が出た場合、剥がれの原因となるため、象嵌が非常に難しい技法であることは言うまでもない。
また、削りだしの際、異なった土をしっかり嵌入しないと、土に馴染む感じ、いわゆるフィット感が出せない。このため嵌入した後、乾燥させ表面を磨く作業にも細心の注意が必要だ。私も手塚さんの象嵌技術を肌で感じるため、数日、象嵌体験をさせていただいたことがあった。
まずは、ろくろで小ぶりな小鉢をつくり、乾燥させてから文様を削りだした。水分量に気をつけながら異なった色の土を嵌入していくのだが、削りだしが甘い部分には土が上手く嵌入できず、文様を均一に仕上げる難しさに苦慮したのを記憶している。
手塚さん自身、象嵌の技法に行き着くまでには、様々な技法にチャレンジしてきたという。いいかえれば、どんな技法にも対応できるということも出来ようが、なぜか象嵌が一番しっくりきたというのだ。
漆を営む環境で育ち、
現在では海外でろくろを回すことも・・・
もともと、木曽で漆を扱う事業を営まれていたご両親のもと、漆器や漆の家具類に囲まれたアートな環境で幼少期を過ごしてきた。お父様の漆の事業も産地の木曽だけでなく、東京にも事業拡大されていたため、手塚さん自身は東京生まれの東京育ち、現在も都内に住まいと工房を構え、百貨店の展示会等、積極的に作家活動を行っている。
手塚さんの作風には、女性らしい一面も垣間見えてくる。
年に一度、自らへのご褒美も兼ね、海外に渡航するのが習慣化しているという。地元の窯業家を訪ね、現地でろくろを回すことも珍しいことではない。帰国後、海外で感じ取ったものをそのまま作品に表現していく。

海外で感じ取ったものを創作活動に活かす
弊社、晩酌屋オリジナルで製作いただいた、スウィングする器のデザインは手塚さんのチェコシリーズから製作いただいた。
このチェコシリーズは、チェコ共和国を訪問した際、おとぎの国のイメージが浮かび、落ち葉や様々な植物のかわいらしい雰囲気をデザインしたものだ。とくに、私が手塚さんの作品に惹かれたアフリカシリーズは、ジンバブエのビクトリアフォールズ(滝)をイメージして製作したものだと後に伺った。同じアフリカシリーズでは、ナミビアの砂漠の干上がった地面をイメージした作品も面白い。
幼少のころから、漆器や漆の家具類に囲まれた環境で、芸術的なセンスも育まれてきた手塚さん。繊細で女性的な感性は言うまでもないが、危険地帯とも思われる海外地域に、宿泊予約なしで、飛び込みで赴く男気な勇気にはいつも驚かされる。
彼女の型破りな行動力から生まれる、今後の繊細な作品が非常に楽しみだ。