陶芸作家・松下龍平さん ~瀬戸内海の手島で描く、陶芸家たちの夢~
瀬戸内海に浮かぶ「手島」という小さな離島を知る人は少ない。

香川県の丸亀港からフェリーで1時間余り、車両積載できるフェリーだと1時間半乗船してたどりつく離島が「手島」だ。島の人口は20人を少し超えるほど。この島も例にもれず、過疎化していて70歳を超える高齢者が主体の島だ。
この過疎化した手島に、若手陶芸家4人が移住したのは、今年の春のことである。
4人のうちの1人、松下龍平さんは言う。
「高齢化とは名ばかりで、島の人はみんな元気です。手島名産のひまわりやこうとう(唐辛子)、野菜や果物にいたるまで、みなさん農業を営み生活されています。ご夫婦で漁師をなさっている方もいて、いつも美味しいお魚をいただいていますよ。」

過疎化された島に、若手陶芸家4人が移り住み、島の人たちも、より元気をもらったのかも知れない。
「島の人にはとても親切にしていただいています。」
松下さんたちにとっても、陶芸に没頭できる絶好の環境なのだろう。
flower chip に想いを込めて
私が松下さんに初めてお会いしたのは、昨年の益子の陶器市であった。
そのころは、兵庫県でご親戚の仕事を手伝いながら、作品づくりをしている時期で、ゆくゆくは離島で陶芸をやりたいとおっしゃってはいた。
松下さんの作品は、flower chipと自ら表現した、小さな土の断片を磁器に散らして装飾する技法だ。
顔料をふくませた土を小さく砕き、元になる磁器に混ぜて成形するのだが、flower chipの断片の埋め具合や、練り込み具合で、断片がはがれたり、しっかり土に馴染まなかったりで、難しい技術を要することは言うまでもない。
晩酌屋オリジナルで制作いただいた、スウィングする器は、底面が綺麗に丸く削られ磨かれていて、手のひらに乗せたときの感触が抜群だ。
もちろん、flower chipを施した部分もすべすべで、断片が練り込まれているとは見ただけでは想像がつかない。

手島の“もの”で創る作品
手島に移り住んでまだ数ヶ月。現在は仮の工房で創作活動をしながら、本工房の準備を進めているという。
「すべて、自分たちでコツコツと工房を作っているため、時間がかかり大変ですが、とても楽しい。」と、松下さん。
陶芸の作品そのものも、将来は手島の“もの”で創りたいと夢を抱く。
手島の土は、必ずしも陶芸に向いたものではない。島内を練り歩き、少しでも粘土質の土を見つけては持ち帰り、現在では30箇所以上の土を採取してきた。試作を繰り返すことで、より適した土を見極め、一歩ずつ夢を手繰り寄せていく。
手島で採れる竹を燃やした灰も灰釉に利用でき、海岸沿いの長石を砕き、溶かして灰釉に混ぜることも考案中だとか。
また、手島で採れるそら豆やひまわりを燃やした野菜灰もいいかもと、想像はどんどん膨らんでいく。
手島“ロマン”が産声をあげた
「この島を元気にしたい!」
そして、
「手島でできる“もの”を通して様々なことを発信していきたい!」
それは、松下さんたちがつくる陶芸作品だけでなく、島民の方たちが生み出す様々なものを発信していくことで、もっと手島を知ってもらい、好きになって欲しいということに他ならない。
過疎化した島に若い人たちが再び息吹を吹き込む。
手島の“ロマン”は、いま始まったばかりだ。