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白鷺木工・2代目戸田義治さん、3代目戸田勝利さん ~原木から見極め、美しいフォルムの器を創作する~

最終更新: 2019年12月14日




 石川県加賀市山中温泉のエリアから車で登っていくと、大きな原木が幾重にも積み上げられている光景が目に飛び込んでくる。


 山道にさしかかる手前の光景なだけに、あたかも、近くの山で伐採されてきた原木のように見えるが、そうではない。この幾種類もの原木たちは、近郊の岐阜、福井、金沢の材木市場から、熟練の目利きを経て選ばれたものだ。


 この目利きの達人が、加賀に拠点を置く白鷺木工の代表・戸田義治さんだ。


 加賀といえば、山中漆器を思い浮かべる方も多いだろう。漆器制作においては、数々のプロセスがあり、多くの職人さんが1つの器に魂を込めていく。


 白鷺木工は、この一連の制作工程の中で、原木を寸断してから器を挽く工程までを一貫して行っている。




原木を仕入れる経験と勘

 「あれはダメだ!」

 材木市場は基本“競り(セリ)”で原木を落としていく。

 原木を吟味する戸田義治さんが、同行している次男の戸田勝利さんに続けてつぶやく。


 「なんであんなの買うんだ!」


 ダメだしされ、勝利さんが長年の経験と勘が必要だと感じる瞬間だ。

 勝利さんが一人で買い付けに行って、義治さんより長い時間をかけ吟味したものでも、

持ち帰って切ってみると、期待を裏切られることも多い。


 外側のかすかな傷から、中の状態を読み取る力は、一朝一夕では出来ないということだろう。器に取れる部分が少なければ、当然採算は悪くなる。特に山中の器は、縦木取りで木目の美しさを魅せるため、いい状態のものしか使えないという事情もある。




懸命にロクロを挽く

 勝利さんが、白鷺木工で器を挽き出してから10年が経過した。

 元々、義治さんまでの代では、原木の仕入れと切りだしが主たる業務だったため、器を挽く業務の10年はそのまま白鷺木工の経過年数でもある。


 「初めは隣家の2階にいた宮本のおじいちゃんのロクロを見て学んだ。」

 何もかも手さぐり状態でスタートを切った。


 その後、加賀にあるロクロの学校で技術を学ぶも、当初は自分が挽いたものが返品されてくることも少なくなかった。

 当時、熟練の方が挽いたものと、手にとって比べるとその差は歴然だった。


 挽く技術は、そのまま後工程の、拭き漆を施すときに、また、金箔など装飾する場合にも、その繊細さ精微さは生きてくる。


 「次に仕事をする人が、やりやすいように・・・」

 勝利さんの想いが“挽き”の精度を上げていった。






挽く技術と刃物を作る技術

 “挽く”技術はもちろんだが、挽くための“刃物”が完成された器を作る上での重要な要素となる。


 器を挽く方法として、前述のロクロを使う方法と、旋盤で挽く方法がある。

 ロクロの場合、手作業で削りだすため、どうしても時間を要してしまう。旋盤を使うとその5倍は生産効率が上がり、ロクロのように経験年数がなくても、挽けてしまうのだ。


 「せっかく旋盤を買ったのに、ものの数ヶ月で使わなくなった人もいる。」

 刃物が切れないので、使えないのだ。


 旋盤の刃物は、棒状の刃金を自分自身で削り、加工して作る。

 刃の角度や、曲面のRなども考え、精巧に仕上げる。

 切れる刃物は、ミリ単位の違いで完成度は高まる。

 もちろん、器の形状に合わせ、数種類の刃物は必要だ。

1時間おき、いや、仕上げ挽きの場合は、もっとこまめに刃物を研がなければいけない。


 料理人の板前さんが包丁を念入りに研ぐ姿が思い浮かぶが、道具あってこそ、美しいフォルムの器が生み出される。







「ONE TEAM」の成せる技

 「白鷺の器は、ここまで挽くかというくらい挽いて磨いてある。」


 拭き漆では、加賀でも1,2の技術を持つ塗り師さんが、教えてくれた。

 挽く精度によって、漆の馴染みが違うのだろう。

 粗く削ると、真っ黒になって仕上がってしまう。


 器は正直だ。

 底面に“へそ”のような出っ張りや、粗い部分の手触り感でも、技術の違いを伺い知ることができる。


 器の各々の制作工程の作り手さんが1つになって、はじめて完成度の高いものが出来上がる。今年流行った、まさに「ONE TEAM」の成せる技なのかも知れない。






山中の器を途絶えさせないために

 加賀の伝統と文化を継承してきた、山中漆器。

 他の伝統産業同様、後継者難に悩む業界であることは、言うに及ばないであろう。


 ましてや、材木市場で原木を仕入れ、次の工程に材料供給する事業所は、白鷺木工と組合、そしてもう一軒あるのみと聞く。元の材料が容易に調達できないとなると、後工程で働く人たちの生活を脅かすことにもなる。


 木の持つ、自然の温かみは、私たちが忘れかけているものを、ふと思い出させてくれる。


 山中の器が今後将来、途絶えることなく人々を和ませるためにも、勝利さんの活躍に期待したい。